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東京高等裁判所 昭和37年(う)1266号 判決 1963年4月02日

被告人 清水元一

主文

本件控訴を棄却する。

理由

弁護人間山通正の控訴趣意について

所論は、原判決は判示豊島簡易裁判所の調停手続が合法且つ有効であるとの前提の下に被告人の所為を以て刑法第二百六十二条の二に該当するものであるとしたが、右調停手続は利害関係人たる被告人の合意がないのに成立せしめられたものであるから民事調停法第十六条に違反するのみならず、また右調停は利害関係人たる被告人の反対により成立の見込のないものとして調停不調に終らしむべきものであつた点において民事調停法第十四条に違反する無効のものといわねばならない。しかして右調停は松戸正子の所有地に隣接する東京都練馬区東大泉町一〇五一番の十八山林二畝七歩の所有者である被告人の土地所有権を侵害し刑法第二百六十二条の二、及び同法第二百三十五条の二に違反する内容を含むものであるから右調停は民法第九十条に違反するものであつて、この点からしても右調停は無効と云わなければならない。故に原判決は右法令の解釈を誤り、罪とならざる事実を有罪と認めた違法があると主張する。

しかし、原判決挙示の各証拠によれば松戸正子は昭和三十三年六月三十日、東京都練馬区東大泉町一〇五一番の六宅地七〇坪及び同番の二六宅地四〇坪を実測面百六坪として角田武より買い受け所有し来つた者であるが当時隣地である同町一〇五一番の十八山林二畝七歩との境界は約三米の高低ある傾斜をなしていたところ、昭和三十四年五月頃右隣地の所有権を取得したと主張する被告人が右土地の整地を行うと称して右傾斜地内深く土地を削り取つたためここに右両地の境界につき紛争を生じ松戸正子は豊島簡易裁判所に対し当時右土地の所有名義人であつた加藤武男を相手方として土地境界確認の調停申立をなし、昭和三十四年十二月八日同裁判所において、右当事者間に、一、相手方は申立人所有の別紙目録記載の土地が実測百六坪なることを確認する。二、相手方は右申立人所有の土地の内約五坪が別紙実測図面の如く削りとられていることを確認する、三、昭和三十五年一月末日までの間申立人及相手方双方立会の上実測して申立人所有地が百六坪になるように第二項の如く削られた土地について、境界を確定する(以下略)等を調停条項とする調停が成立し、昭和三十五年六月二十四日松戸正子は右調停条項に従い相手方である加藤武男並びに同人より昭和三十四年八月二十六日右隣地を買い受け当時登記簿上所有名義人であつた斉藤一平等立会の下に測量士石瀬他正をして実地測量をなさしめた該境界上に石杭木杭等の境界標を設置したところ、被告人は翌二十五日午前九時頃現場に赴き人夫を使役して右石杭、木杭、有刺鉄線等の境界標を損壊または除去したことが認められる。尤も被告人は右隣地を昭和三十三年三月十四日、当時の所有者である榎本真平より買い受け、昭和三十三年五月三十日右土地につき譲渡質権、抵当権貸借権の設定その他一切の処分を禁止する旨の仮処分命令を得て同年六月二日その旨の仮登記を経由したものであるから、右土地境界確認の調停は利害関係人たる被告人の合意なくしてなされた無効なものであり、且つその内容は被告人の所有権を侵害するもので、被告人の反対による調停不調として終結さるべきものであつたと主張するが原判決挙示の証拠によれば被告人と榎本真平との間の右土地売買契約が有効なりや否やについては当事者間に争があり、また榎本真平は昭和三十三年四月二十二日被告人の背信行為を理由として右契約を解除する旨通告していることが認められるから、被告人の右土地に関する権利は右調停並びに本件犯行当時においては未確定のものであつたと云うの外なくこの様な状況の下において松戸正子が当時の登記簿上の所有名義人である加藤武男を相手方として申し立てた前示土地境界確認の調停はその所有名義人である当事者間において有効であることは勿論であり利害関係人である被告人の同意がないとの一事を以て当然無効であるといいえないことは云うを俟たない。従つて松戸正子が前示のように右調停条項に基き加藤武雄斎藤一平等の立会の下に測量士をして測量せしめた上設置した前記境界標は、前記当事者間において正当に設定された境界を表示するものであつて刑法第二百六十二条の二所定の境界標として同条により保護される対象となるものというべく、これをほしいまま損壊除去し、土地の境界を認識すること能わざるに至らしめた被告人の行為は右法条に違反するものといわねばならない。なお被告人の本件行為が被告人の本件土地所有権ないし占有権に対する急迫不正の侵害に対する正当防衛または自力救済行為と認められないことは原判決の説示するとおりである。故に原判決には所論のような違法はないから論旨は採用するを得ない。

弁護人榧橋茂夫の控訴趣意について

所論は原判決の事実誤認及び法令適用の誤を主張するものである。しかし、所論中松戸正子と加藤武男間に成立した調停が無効であるとの主張並びに本件が不法な占有侵奪に対する正当防衛ないし自力救護であるとの主張が理由がないことは前示のとおりでありその他の主張中遠山昭典を無権代理人と認定したこと、被告人が無断で整地したものと認めたことが誤認であるの点は右誤認が本件判決に影響を及ぼすものとは認め難い、また榎本真平が仮処分仮登記をしたとの認定を攻撃する部分は原判決を誤読したものに外ならないから論旨はいずれも採用するを得ない。

よつて論旨はいずれも理由がないから刑事訴訟法第三百九十六条により本件控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 藤嶋利郎 山本長次 荒川省三)

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